新しいことに挑戦するとき、あなたならどちらのタイプでしょうか。 「自信がついてから公表する」タイプか、それとも「先に言ってしまう」タイプか。

多くの人は前者だと思います。「できなかったら恥ずかしい」「笑われるのが怖い」。だから、結果が出るまで黙々と努力を隠そうとします。

しかし、私がマラソンを始めた時の歩みは、まったく逆のスタートでした。 始まりは、実力も実績もない、まさに**「口先だけの覚悟」**からだったのです。

今日は、何の根拠もない「ひと言」が、いかにして私のランニング人生、ひいては自分自身のあり方を変えたのかをお話しします。

職場の同僚に放った「大口」

ランニングを始めたばかりの頃の話です。 半年後に初めてのフルマラソン大会へのエントリーを済ませた私は、職場の同僚との雑談の中で、勢いに任せてこう宣言してしまいました。

「半年後、3時間を切る(サブスリーする)!」

当時の私には、マラソンの過酷さも、サブスリーの難易度も分かっていませんでした。 当然、練習の裏付けもなければ、過去の実績もゼロ。 それは単なる冗談交じりの会話であり、その場のノリで放った、正真正銘の「口先だけの言葉」でした。

しかし、不思議なものです。 口から出た言葉は、私の耳を通って脳に刻まれ、それはいつしか自分の中で「守らなければならない約束」へと変わっていきました。

2週間で訪れた「辞める理由」

「宣言」の効果が試されたのは、それからわずか2週間後のことでした。 初心者の私を、強烈な**「膝の痛み」**が襲ったのです。

走っている時はもちろん、何もしなくてもズキズキと痛む。 ランニングの教則本やネットの情報を見れば、答えは一つ。「痛い時は休め」です。 常識的に考えれば、ここで数日間の休養を取るのが正解だったでしょう。

しかし、私の頭をよぎったのは、あの同僚への言葉でした。 「ここで休んでしまったら、あの宣言が達成できなくなる…」

もし誰にも言わずに始めていたら、「膝が痛いから仕方ない」という正当な理由をつけて、私は間違いなくランニングを辞めていたと思います。 公言してしまったことによる「恥をかきたくない」という小さなプライドが、「辞める」という選択肢を消し去り、「できるところまではやる」という覚悟を決めさせたのです。

「覚悟」が生んだ独自の工夫

「休む(辞める)」という退路を断ったことで、私は知恵を絞りました。 「痛みを抱えたまま、どうすれば走り続けられるか?」

そこで辿り着いたのが、以前の記事でも触れた**「坂道を徹底して避ける」**というスタイルです。

  1. 走ることは絶対に辞めない(毎日継続する)。
  2. その代わり、負荷のかかる坂道やスピード練習は捨てる。
  3. ペースもタイムも気にしない。

これは、自分を追い込むためのスパルタな根性論ではありません。 「口先だけの言葉」を現実に変えるために、今の自分がギリギリできることを探し出した結果の「生存戦略」でした。

そして迎えた初マラソンの結果

そうして半年間、平坦な道を這うように走り続け、迎えた本番。

「サブスリーする」と豪語した私の初マラソンの結果は、こうなりました。

項目結果
出場種目フルマラソン(男子30~39歳)
タイム(グロス)3時間27分02秒
タイム(ネット)3時間21分51秒
総合順位1085位 / 5790人
メモ初マラソン・初フル・初エントリー

結果は、3時間21分。

正直に言えば、宣言した「サブスリー(3時間切り)」には届きませんでした。やはりマラソンは甘くありません。同僚への約束は、形の上では果たせなかったことになります。

しかし、考えてみてください。

膝の痛みに悩み、坂道すら走れなかった初心者が、初フルで3時間20分台です。

これは手前味噌ですが、自分でも驚くような好タイムでした。

「サブスリーする」という高すぎる目標(大口)がなければ、おそらく完走目標レベルで終わっていたでしょう。

高い目標を掲げ、退路を断ったからこそ、3時間21分という**「サブスリーへの明確な射程圏内」**に着地できたのです。

「言う」から「できる」ようになる

この結果が自信となり、私はその後も走り続け、やがて本当にサブスリーランナーへの階段を登り切ることになります。

もし、あの時「自信がついたら言おう」と黙っていたらどうなっていたでしょうか。

おそらく、膝が痛くなった時点で「また今度でいいや」とフェードアウトし、今の私は存在しなかったはずです。

「できるから言う」のではなく、「言うからできるようになる」。

自分を追い込むために、あえて退路を断つ。

最初は「ハッタリ」でも構いません。言葉にして空中に放ってしまえば、その言葉があなたを引っ張り上げてくれます。

まとめ

何かを始めるとき、根拠なんてなくていいのです。

「口先だけの覚悟」も、行動が伴えば、それはやがて「本物の自信」に変わります。

もし今、あなたが何かに挑戦しようとしていて、一歩が踏み出せないなら。

まずは周りの誰かに「やります」と言ってしまってはいかがでしょうか。

そのたった「ひと言」が、あなたの未来を劇的に変える最強のスイッチになるかもしれません。

かつての、膝の痛みに耐えて走った私のように。

ABOUT ME
raphael
長野県在住のランナーです。 32歳からランニングを始め15年以上継続しています。 週末は善光寺周辺を中心に川沿いのコースを走っています。 現在サブ3を10年以上継続しています。今後も継続できるように時間を作って練習しています。